2012年5月21日

あなたの町の都市伝鬼 / 聴猫芝居

★★★★★
民俗学コメディあらわる?

民俗学者を目指し、都市伝説の編纂をすることとなった高校生の主人公・八坂出雲のもとに、自分の記録を残してもらうべく、都市伝鬼と名乗る妙齢の女性たちが続々あらわれて......というのが大まかなあらすじ。
これはあくまで推測ですが、ムラサキカガミのサキが自分たちのことを都市伝説ではなく、都市伝鬼と訂正させたのは、おそらく一般的な都市伝説として噂話やバラエティ番組などで吹聴されている『M資金』『東京メトロ核シェルター説』『Wingdings』などといった、強烈なキャラクターが出てこない種類の都市伝説と一線を画すためなのでしょうか。

とにかく本作は突っ込みどころが多くて......と言うより、むしろ読者に突っ込ませることが目的なのでは? と思ってしまうほどで、読み進めながらも作者の『策略』に引っかかってしまいました。また、本作はコンセプトのレベルで柳田國男『遠野物語』の影響を受けているようなので、念のため言っておきますが、民俗学は都市伝説や妖怪についてのみを扱っているものではなく、人々の生活や風習、習慣、行動を体系化するものですからね。ご存知かとは思いますが。

もし続編が作られ、本が完成しつつある状態まで話が進展したら、都市伝鬼にまつわる情報源の提供者はどう表記するのだろう?というのが気になるところ。 まさか『本人から直接ヒアリングしました』とするのか? 落としどころをどう持っていくかは楽しみだったりします。

2012年5月17日

エスケヱプ・スピヰド / 九岡望

★★★★★
The beginning of the end of the world

戦争により荒廃した、それも20世紀初頭から実際の歴史と分岐したことを連想させるモダン・クラシック的要素を含有する、近未来の日本のパラレル・ワールド(作中では極東の島国《八洲(やしま)》と称される)という世界観は一瞬だけ映画『マッドマックス』シリーズや『未来少年コナン』などといった、『世界の終末後の世界でたくましく生きる人々』を連想させるが、蜂こと九曜と蜻蛉こと竜胆との微妙な関係、九曜と叶葉との邂逅、とりわけ、戦う以外に目的が無かった九曜から生まれた、『機械』らしからぬ己のアイデンティティに関する考察等々を巧く描いています。
具体的には、人は様々な矛盾を抱えながらも、それを様々な形で処理したり、抱え続けてもひとまず生きていくことはできますが、その一方で、あらかじめプログラミングされた指示の集合体である機械には、エラーメッセージを出すくらいしかできないでしょうが(最たる例として、新しい命の誕生には歓びを覚えるのに、「それに至る行為」については正視しようとしなかったり、ツンデレ少女の「別にアンタのことが好きでこんなことしてあげているんじゃないんだからね」という台詞と実際の行為が挙げられるだろう)、九曜・蜂と竜胆・蜻蛉といったサイボーグ(作中では『鬼虫』と称される)という、最強の兵器を作らんと人間と機械の「いいとこどり」を狙った結果、同時に、残された人としての感情と、機械として敵と戦うという目的が果たされてしまったら、機械としてのアイデンティティはどうなるのか? なぜ捨てたはずの人としての感情が残っているのか? というジレンマを自然な形で表現しています。

一方で、蜻蛉こと竜胆が戦争終結後、戦う意味を見出すため、結果的に廃墟都市『尽天』の孤立化を招いたようすが描かれていますが、人間には手を出さないものの、自らを攻撃するものすべてを敵とみなしただけであれば、なぜ『尽天』の孤立化までして人々を困らせる必要があったのか?が不可解だったのが唯一残念だったところ。

しかしながら、蜂こと九曜と蜻蛉こと竜胆との度重なる戦いのシーンにおいて、その描写が自身の脳内に絵として浮かび上がってきたので、文章のクオリティは非常に高いと思われます。

文章のクオリティの高さに別の方向から焦点を当てれば、元整備兵で、戦争時の『鬼虫』を知る生き字引的な存在である安藤という老人を登場させ、彼にさりげなく蜂と蜻蛉の『二匹』のディテールについて解説させることにより、読者に自然と『鬼虫』の概要についての知識を植え付けたのはさすがです。

2012年5月 9日

アクセル・ワールド 8 運命の連星 / 川原礫

★★★★★
目的の目的の目的

ISSに侵されかけたシアン・パイルを守り、クロム・ディザスター(災禍の鎧)をシルバー・クロウから除去する能力を持つアーダー・メイデンとシルバー・クロウ自身の「帝城」からの脱出を試みるという、『目的の目的(あるいは目的の目的の目的)』が描かれているため、小生のような残念な子はリファレンスとして手元に既刊分を常備するか、某Wikiの力を借りて芋づる式に記憶をたどる必要がでてきました。

心意(インカーネイト;incarnate)システムの第二段階のくだりで頭をよぎったのは、これは色々なところで例えられていることですが、ミツバチの羽は、空を飛ぶのに十分な面積と構造を持っていないという豆知識。しかしながらその衝撃的な事実をを知らないミツバチは空を飛ぶことができている。つまりはミツバチは己の限界を知らず、ある意味においては現実世界で心意(インカーネイト;incarnate)システムを発動しているとも言えます。
バスケットボールで限界を超えようとしたハルユキを描くことにより現実世界においても意識を変え、行動すれば、作中世界におけるデタラメな強さではないにせよ、限界を超えることはできるよという作者のメッセージはしかと伝わりました。無謀は禁物ですが、少しくらいの無茶はしないと可能性は広がりませんからね。

2012年5月 6日

アマガミSS+ plus 2 桜井梨穂子編 / 2012年・日本

★★★★★
用意ドーン! スターターかいっ!! (by 飛石連休)

桜井梨穂子編では、前作『アマガミSS』(第17話~第20話;Blu-ray/DVD第9巻~第10巻収録)において、二人の距離は縮まったものの、ヒロインたちの中で唯一あと一歩のところで付き合うまでに至らず、まるで途中で打ち切られたジャンプマンガのエンディングみたいになっていたため、もし続きがあるとしたら一番観てみたかったのが桜井梨穂子編でしたので、その続編が現実となった今、否応にも小生の期待は高まります。
ストーリーは三年生の夏休み。前作エンディングの三年生の春から全く関係が進展していないと言うことは、一学期の間梨穂子は何をやっていたんだ!? というツッコミはとりあえず置いておくとして、前後編を通じ、夏休みの或る日のほぼ24時間が描かれており、梨穂子が純一に真ん中高めの甘い直球を何度投げても、香苗、瑠璃子、愛歌のサポートをもってしても、十年以上もの間なかなか動かなかった二人の関係がいよいよ動き出すのか......? といったところがストーリーの本筋です。

前編のストーリーとゲームシナリオから考えて、高架下でのシーンからの後編の展開はいささか意外な印象を受けましたが、純一が梨穂子との関係を振り返るトリガーとなり、アルバムの中の二人を見返すことによって自分の本当の気持ちを確認すると同時に、これからもずっと一緒に居続けるために、幼馴染から一歩進んだ関係になることを決断するという流れは決して悪いものではありませんでした。ことあるたびに不遇な扱いを嘆いていた梨穂子役の新谷良子さんは、果たして今回のエンディングに満足したのでしょうか。

それにしても、瑠璃子、愛歌の露骨な下ネタ(大学に入って何があった?)と後編サブタイトル「フウリン」、そして橘家の縁側にある「タネウマクン」の風鈴は何かのメタファーだったのでしょうか。

特典映像はゲームでもおなじみの、個人的に好きなシーンであるものの、ストーリーラインには無かった電話ボックスのシーンが再現されています。この初々しさがいいわ。

DVD版はこちら となります。

2012年5月 1日

アクセル・ワールド 7 災禍の鎧 / 川原礫

★★★★★
故意的なミスリードと数多のフラグ

前巻の終わりから本巻冒頭への繋げ方と、読者に対するミスリードのしかたがうまい。 本巻の序盤では、なぜクロム・ディザスター(災禍の鎧)が生まれたのかが明らかになりますが、それがハルユキの夢としてプレイバックされたものなのか、読者にのみ与えられた情報なのかがあいまいなまま、少し悲しい話が展開されています。

シルバー・クロウとアーダー・メイデンが思いもがけず潜り込むことができた『帝城』についてや、トリリード・テトラオキサイドとの邂逅、帝城を含む東京のランドマークに鎮座していた、北斗七星をモチーフとしている『七の神器(セブン・アークス)』、ISSの真相を追い、逆に危機に陥ったタクムとの交戦にすべての情報が盛り込まれておらず、それぞれについて複数のフラグが立ったまま第8巻に続くため、第3巻と第4巻と同様、第8巻を用意の上、一気に読み進めることをおすすめします。

もしかしたら作者は、ハルユキ自身が、初期ほどではないにせよ、自身を卑下し続けている一方で、タクムが、常に前に進もうとするハルユキの姿勢を羨ましがったり、ある意味において『似た者同士』である黒雪姫がハルユキに好意を持ち続けていることをコンスタントに描くことにより、自分のことは自分でも分からない部分があり、自分のことをあまり悲観するものではないよと言うメッセージを含めているのでしょうか。ハルユキの性格は、よく言えば謙虚でストイックという捉え方もできますし。一方で、自分にもそんな部分があるのでは? と思うのは自身の奢りでしょうか。

だからさぁ、お前ら人前でいちゃいちゃできるなら、リアルでチューしちゃいなよ。

2012年4月27日

アクセル・ワールド 6 浄化の神子 / 川原礫

★★★★★
ディスりディスられ

前巻『星影の浮き橋』で、GMイベントを妨害した『加速研究会』への対応と、ハルユキことシルバー・クロウの身体を支配しかけ、すんでのところで振り切ったものの、今なおシルバー・クロウの背中で『寄生』し続けている災禍の鎧(The Disaster)を除去するために四埜宮謡と邂逅し、除去する手筈を整えるために超級エネミーから一時間ごとに殺されるために事実上無制限中立フィールドに入ることができない謡ことアーダー・メイデンを救い出そうとする一方、バーストリンカーなら誰でも簡単に心意(インカーネイト;incarnate)システムが発動できてしまう、ゲームバランスの崩壊を招きかねないISSキットが拡散しつつあり......のが今回のおはなし。
物語の本筋もさることながら、七王会議により、事実上の『緩衝地帯』であるところの千代田区、皇居東御苑本丸跡に7人の王とその側近が終結し、ディスり合う姿は、比較的シリアスなシーンであるにもかかわらず、まるでWWEのそれか、映画『8 Mile』のMCバトルを髣髴とさせるシニカルな可笑しさの描写が素晴らしいと感じました。

あと、ストーリーの本筋とは関係ありませんが、アルファロメオのEVが発売されるのはいつのことでしょうかねぇ。

2012年4月25日

アクセル・ワールド 5 星影の浮き橋 / 川原礫

★★★★★
Let's stay together (脳内BGM)

対戦フィールドが熱圏と低軌道を周回する宇宙ステーションを結ぶ軌道エレベーター『ヘルメス・コード』へ拡張されたのを記念して開催されたGMイベントへの参加とその顛末が今回のおはなし。
おそらく、大多数の読者は「Youたち、いい加減チューしちゃいなよ」という感想を抱くことでしょう。 つまりは女性が独りで男性の家へ丸腰で訪れることの意味を、実年齢と精神年齢が乖離している、つまりは中学三年生にして心の中は少女ではなく大人の女性である黒雪姫ことサッちゃんが知らないはずも無いことは容易に想像できる一方、乖離があまり進んでいない、すなわち彼女と比べてまだ幼いハルユキにはそこまでの結論に至らず、その場ではあたふたすることしかできないようすがうまく描かれています。中高生の頃なんか、女の子の髪から漂うシャンプーの香りだけで何杯もメシが食えましたからね。
もっとも、ここで簡単にくっついちゃったら、今後のストーリーに影響を及ぼすことは目に見えていますから、二人のリアル上でのリレーションシップについては今後何かの形でゆっくり進んでいくものと思われます。

これだけですと、劣等感の塊で、自分を卑下しがちなハルユキに、彼が仲間のために涙する優しい性格であることを差し引いても、そんなラッキースケベなシチュエーションは発生し得るのか? という読者の疑問に対し、ハルユキ、黒雪姫、フーコことスカイ・レイカーとの会話の中で、なぜ黒雪姫がハルユキに惹かれたのか、ある程度納得のいく答えが提示されています。もちろんそれがすべてではなく、本巻で言及されていること以外の理由もあるのでしょうけど。

2012年4月23日

アクセル・ワールド 4 蒼空への飛翔 / 川原礫

★★★★★
引っ張り方がうまいなぁ......

第3巻からの、いわば『ダスク・テイカー編』の後編に相当する本作。第3巻のレビューで多くのレビュアーさんたちが第3巻と第4巻の2冊を用意したうえで一気に読むようアドヴァイスをしたことに繋がる話ですが、作者あとがきでも言及されているように、読み進めていくうちに、本の残りの厚さで、そろそろまとめに入るであろうという読者の推測を裏切りたかったという作者の意図にまんまと引っかかってしまいました。

肝心のストーリーですが、ブラック・ロータス不在の中、逆転を狙うべくリアルとヴァーチャルを奔走し、念入りに準備をするシルバー・クロウとシアン・パイルそして、チユリはハルユキとタクムを裏切ったのか? それともダスク・テイカーこと能美に脅されていたのか? を最後の最後まで引っ張り続けることができていることに、筆者のストーリー作りに対するクオリティの高さに感服せざるを得ません。

本レビュー掲載時点(2012年4月)に、TVアニメーションがスタートしましたが、オープニングに一瞬だけ第4巻初登場の、マッチングリスト遮断の謎をシルバー・クロウ=ハルユキとともに追ったブラッド・レパードの姿があるので、少なくともアニメーションでもこの部分も描かれるのでしょうし、どう描かれるのか楽しみです。

2012年4月19日

アクセル・ワールド 3 夕闇の略奪者 / 川原礫

★★★★★
とりあえずはすべてを受け入れましょう

他のレビュアーさんたちのアドヴァイスに基づき、第3巻と第4巻を用意の上で読み始めることに。確かにそれは正解だったようです。

能美がハルユキたちに対して行なう、弱みを握り、嵌め、脅し、奪うという仕打ちは、通常12、3歳のガキができるような芸当ではないことから、黒雪姫やニコ(スカーレット・レイン)同様、実年齢と精神年齢が乖離していることが窺い知れます。
第2巻で初登場し、第3巻での主たる舞台の一つである無制限中立フィールドに『精神と時の部屋』の、旧東京タワーに『カリン塔』の存在が一瞬頭をよぎったものの、それは勧善懲悪ものの時代劇が水戸黄門と......と言うことと同じぐらいの愚問なのであれこれ言うつもりはありません。
また、心意(インカーネイト;incarnate)システムという、従来のプログラムの概念を超えた、VR空間上でも『気合と根性があれば何でもできる』というご都合主義的なモノの登場に、多くのレビュアーさんは否定的な意見を持っているようですが、そもそもフィクションというものはご都合主義の塊であり、突き詰めてしまえば、読み手がブレイン・バースト上の時間軸と実際の時間軸の相違は受け入れておきながら、心意(インカーネイト)システムを受け入れないのは、読み手の中で矛盾が発生するということになってしまいます。
その中でいかにして、あたかもそれが存在しているかのようにリアリティ感を出しながら描くかというのが作家の腕の見せ所ではありますが、そのような意見が出るのもある程度は仕方のないことだと思います。もっとも、作品と言うものは作家の手を離れたら、受け手が本作をどう感じるかと言うところに干渉することは不可能なので(まさか著者がバーストリンクしてブリキロボットのアバターに変身し、読者の首根っこを掴んで「本当の意図はこうなんじゃゴルァ!」と言うわけにもいきませんしね)。もっとも、個人的にはこの内容をアクセプトしますけど。

別の言い方をすれば、頼れる存在の不在、強い敵の登場と敗北、レベルアップのための鍛錬、(読み手にとってはある程度想定内ではあるが)作品世界におけるキャラクターの想定外の行動といった、いわゆる王道パターンではあるものの、十分違ったストーリーとフォーマットで見せてくれているので、個人的には特に問題はないと思っています。絶妙なところで次回に繋げましたしね。

2012年4月18日

アクセル・ワールド 2 紅の暴風姫 / 川原礫

★★★★★
黒雪姫先輩の『弱さ』について

(少なくともハルユキはら見たら)完全無欠に見える黒雪姫先輩の、その時は仲間でも、いずれ敵として対峙しなければならないというブレイン・バーストの宿命に心が折れそうになるという彼女自身の『弱さ』を露呈させ、それでも前に進んでいくという鼓舞にも近い決意までの流れを自然かつ巧みに描写しきっています。

本を読むとき、畏れ多くも『もし自分が著者ならどのようなストーリーにするか?』みたいなことを考えながら読み進めていくことが多いのですが、本作にはそれを全く感じず、一行、一語が自身の想像を上回っていることにただただ驚きを禁じえません。

また、これは第1巻と共通していますが、『ブレイン・バースト』の真実にたどり着くという大きな目的と、スカーレット・レインと手を組み、5代目クロム・ディザスターを討伐するという目の前のタスクをうまく並行させています。(第1巻では黒雪姫によるハルユキのスカウトと、同じ学校のもう一人のバーストリンカーを探し出すことが目的でしたね)

ヤバいです。青梅街道を走るたび、西武池袋線で練馬・桜台あたりから池袋方面に向かうたび、アイツがいるんじゃないかと錯誤してしまいそうです。一体どうしてくれよう。

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